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【不動産覚書】転売禁止特約は本当に守らなきゃダメ?

2025/06/23 (Mon) 07:40
━━━━━━━━━━━━vol.1027━2025.06.16━
不動産覚書~要点だけ。メールで届く、不動産の本質~
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XXXXさん

おはようございます。村上です。

先日、久しぶりに一冊の本に没頭しました。タイトルは『闇と闇と光』。M&Aの世界を題材にした小説です。小説という形式を通じて語られる体験は、ビジネス書とは違ってスッと自分の中に入り、じわじわと残る感覚があります。物語の力ですね。思わず「自分もこんな小説を書いてみたい」と思ってしまいました。

さて、今回のメルマガでは、不動産実務で見落としがちな「特約条項」、とりわけ「転売禁止特約」と「違約金」の扱いについて、裁判例を通じて深掘りしていきます。契約書の隅に記載されている文言が、後の大きなトラブルに発展する――そんな可能性を、実例とともに考えてみましょう。

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■ メイントピック|転売禁止特約は本当に守らなきゃダメ?
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東京地裁の判決事例から「転売禁止特約」と「違約金」に関する重要な教訓をまとめることができます。

1.裁判例から学ぶ契約条項の落とし穴

不動産取引では、売買契約書に記載される「特約条項」が非常に重要です。
この特約は、通常の契約条件とは別に、当事者同士が合意して付け加える特別なルールであり、小さな文字で記載されがちなため特に注意が必要です。

例えば、「この土地は5年間、転売してはいけません」といった「転売禁止特約」が契約書にさらっと書かれていることがあります。これは、「買った人が勝手に他の人に売ってはいけませんよ」という約束です。しかし、「買ったものは自分のものだから自由に売っていいのでは?」と疑問に感じる方もいるかもしれません。

2.東京地裁の注目判決:何が問題だったのか?

今回ご紹介するのは、実際に東京地方裁判所で争われた「平成25年5月29日判決」に登場した事例です。この事件では、ある土地と建物の売買契約に以下の特約が盛り込まれていました。

・特約の内容
 物件を購入した者は、契約締結日から5年間、この物件を第三者に転売してはならない。
・違約金
 もしこの特約に違反した場合は、**売買代金と同額の違約金(5億円)を支払う。

契約後、買主はこの特約を破り、第三者に物件を転売してしまいました。そこで、売主は「約束を破ったのだから、契約書通り5億円を支払ってください」と請求したのです。

なぜ5億円もの違約金が問題になったのでしょうか?それは、特約違反があったからといって、すぐに5億円を支払わせることが妥当なのか、その金額があまりにも高すぎるのではないかという点が争われたからです。

3.裁判所の判断:特約は有効、でも違約金は減額!

東京地方裁判所は、この争いに対して次のような判断を下しました。

・転売禁止特約は有効
 売主側の信用維持という正当な目的があったため、転売禁止特約そのものは有効であると判断されました。契約の目的が社会的に合理的であれば、「契約自由の原則」の範囲内で有効と認められることが多いのです。

・違約金5億円は無効(過大)と判断
 一方で、違約金については、その額が過大であると判断されました。裁判所は、実際の損害額と違約金の間に著しい不均衡があることや、買主への過度な負担、社会常識との乖離を理由に、違約金条項が「公序良俗(民法第90条)」に反するとしました。

・民法第90条(公序良俗)
公の秩序または善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

・違約金の有効額は500万円
 最終的に、裁判所は売買代金5億円の1パーセントにあたる「500万円」を限度として違約金条項を有効と認めました。

この判決は、契約で決めた内容であっても、社会の常識や公平性に反する場合は、すべてがそのまま有効になるわけではないことを明確に示しています。

4.この判決から学ぶ3つの教訓

この東京地裁の判決は、不動産取引の実務において非常に重要な教訓を与えてくれます。

01.特約の目的とバランスを考えること
特約条項を設定する際は、「なぜこの特約が必要なのか」という目的と、その内容が適切かどうかをしっかり考える必要があります。特約が社会的に合理的な目的を持っていれば有効と認められますが、もし目的が曖昧だったり、不当に相手の行動を縛ったりする内容であれば、「公序良俗」に反するとして無効とされるおそれがあります。

02.違約金は過大にならないよう慎重に設定すること
違約金の金額設定は特に注意が必要です。今回の判決では、5億円という金額が過大とされ、500万円まで減額されました。違約金は、契約違反によって生じた「損害を補う」ために設定されるべきものであり、実際の損害額と著しくかけ離れた金額や、相手を罰するための懲罰的な金額は、「公序良俗」に反すると判断される可能性があります。

03.契約書の特約条項まで丁寧にチェックすること
不動産取引では、売買代金や引渡し日などの基本的な条件だけでなく、特約条項に重要な内容が含まれていることが多くあります。特に、「転売禁止特約」や「違約金条項」は、将来大きなトラブルにつながる可能性があるため、日々の業務で忙しい中でも、以下の視点で丁寧に確認することが不可欠です。

・特約の存在ーどんな特約が付けられているか。
・特約の内容ー内容が合理的か、公序良俗に反しないか。
・違約金の金額ー金額が過大でないか、実際の損害額と見合っているか。

5.結論:契約自由と公平さはセットで考える

「契約自由の原則」は、民法上認められた大切な考え方であり、当事者同士が契約の内容を自由に決められるとされています(民法第521条)。しかし、その自由は「無制限」ではありません。

どんな内容でも認められるわけではなく、過度に一方に有利な契約や、実際の損害と釣り合わない違約金など、社会的な公平さを欠く内容は無効とされることがあります。

不動産取引の現場では、契約書に書いてあるからといってすべてがそのまま有効で通るわけではありません。常に「公平さ」と「社会的妥当性」という視点を忘れずに契約内容を確認する姿勢が、不動産業務の基本となります。

この判決は、お客様の利益を守り、信頼を築く上でも、契約内容の確認と正確な説明がどれほど重要かを教えてくれるのです。

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■ 編集後記|契約自由の裏
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今回は、「契約書に書いてある=すべて有効ではない」ことを明確に示す判例をご紹介しました。契約自由の裏には、社会的妥当性という制限があるという基本原則を、改めて心に刻んでいただけたのではないでしょうか。

日々の業務では、つい価格や引渡し日ばかりに目が行きがちですが、特約条項こそ、信頼を損なう火種になり得ます。プロとして大切なのは、条文の背後にある意図を読み取り、妥当性を見極め、それを正しくお客様に伝える力です。

来週も、不動産の「本質」を掘り下げてまいります。どうぞお楽しみに。

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■ 発行人
株式会社三成開発 村上哲一
〒862-0920 熊本県熊本市北区津浦町44番5号
E-MAIL:murakami@3sei.jp
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不動産覚書:https://i-magazine.bme.jp/92/193/99/XXXX
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